月刊エステティック新聞 2002年7月号
JAPAN MONTHLY ESTHETIC NEWS
世界一のバラの産地、ブルガリア - 高級香水の原料、ダマスク(ダマスカス)ローズ-

バルカン半島東部に位置し、東側は黒海に臨む国、ブルガリア。中央を東西に走るバルカン山脈で二部され、北部はドナウ川流域の平原、南部はソフィア(首都)盆地と丘陵地が広がる。南部は夏が高温乾燥、冬は温暖湿潤の地中海性気候で、北上するにしたがって冬寒く、夏は降水量が多い大陸性気候になる。

ブルガリアの首都ソフィアから東へ車を三時間ほど走らせると、なだらかな山脈に囲まれた地域がある。東西数百キロ、南北十キロのびる細長いこの地域は「バラの谷」と呼ばれ、高級香水の原料である、ダマスク(ダマスカス)ローズの産地として世界的に知られる。

ブルガリアの年代記によると、マケドニアの王、アレクサンダー大王の駐屯兵によって十三世紀に持ち込まれ、十五世紀初頭には盛んい栽培され始めた。十七世紀には蒸留技術の発達により、香水の原料であるローズオイルの生産が行われるようになった。この地域の5月から六月にかけて降る大量の雨、湿気を逃さない厚い雲、日中と夜の気温差がローズオイルの生産を国の代表的な農産業に押し上げた。それ以来、今に至るまでブルガリアは世界一のバラの産地として知られる。

女性のオイルとして健康に貢献

ブルガリアのバラは二千種類以上、変種も含めると九千種類以上にもなるが、オイルの含有料によって、香水として使用できるバラは数種しかない。モロッコ、トルコ、フランスなどでも生産されているが、最も高貴な香りとして有名なダマスク(ダマスカス)ローズオイルはブルガリアが全世界供給量の70%のシェアをしめる。

ブルガリアのダマスク(ダマスカス)ローズオイルの生産は、今でもほとんどの工程を手作業で行う。

毎年5月下旬のバラ収穫期には、夜明け前から老若男女がバラの摘み取り作業にいそしむ。バラの収穫は日が昇り始める直前までの数時間のうちに、一つひとつ手摘みで行われる。太陽が昇ると、その温度でバラの中に含まれる貴重な精油成分が揮発してしまうためだ。

摘み取られたバラは、その日のうちに水蒸気で蒸留し、オイルが抽出される。抽出される量は、通常1キロのオイルを採油するのに3.5トンの花(花弁)が必要だ。これは約1ヘクタールのバラ畑で栽培されるバラの量である。わずかな量しか採れないことから金と同じ価値があるといわれ、高値で取引されている。
ダマスク(ダマスカス)ローズオイルには更年期障害、便秘、冷え性などに薬理効果のある成分が含まれており「女性のためのオイル」と呼ばれる。実はブルガリア国内では、香水としてよりも、薬として薬局で扱われているほどである。また現在市場に出回っているローズオイルと称する商品の90%以上が、人工香料を使用していることからも、ダマスク(ダマスカス)ローズオイルの製品価値の高さを知ることができる。